飛行物体

小学生の頃、飛行機が空を飛んでいくのを見るのが好きだった。他の土地の場合はどうなのかはよく知らないが、自分の地元では飛行場がほど近いこともあってかなりの頻度で飛行機が自分の頭の上を飛んでいた気がする。地上の音を全てかき消すほどの轟音を打ち立てながら飛行していくことも少なくなかった。
なぜ飛行機を見るのが好きだったのか? 飛行機がやって来てから過ぎ去っていく間だけ、地上の活動が停止するような感覚があったからなのかもしれない。轟音の飛行機がいれば、地上の人間は会話ができなくなる。その代わりに、ただ飛行機を何となく眺めていることが許されるような気がした。
幼いながらに全ての活動に静かな絶望を覚えていた自分にとっては、飛行機は束の間の安息を与えてくれる存在だった。全てを破壊するわけではなく、ただほんのわずかの間だけ全てを停止させてくれたのだ。

今日、夜の東京を歩きながら空を見上げてみると、飛行機がいることに気がついた。暗い空を灯りを付けながら飛んでいるから、昼間よりも目立ちやすいのかもしれない。でも、飛行機の音は地上には届かなかった。

そんな夢